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著作権法
『建築物の模型販売~著作権法上の問題はないのか~』

 近時,スカイツリーが建築され,話題を賑わしている。見学者も相変わらず後を絶たないようで,その人気に着眼し,その模型を作って売り出す業者も昨今現われている状況にある。
 古くは,東京タワーが同様の事情にあったが,その人気は今もなお衰えを見せず,各地からの修学旅行生や海外観光客の観光の対象となり,売店には土産物として東京タワーの各種模型が販売されている。
 こういった創作的な建築物について,その模型を作って販売することは,何か問題が生じないのであろうか。
 著作権法は,建築の著作物をその保護が受けられる対象の一つとしてあげている(著作権法10条1項5号)。
 建築の著作物というのは,美術的な範囲に属する建築物のことで,建築物であればどんなものでも著作物にあたるというわけではない。
 それは,純粋美術のように狭く考えられるものではないが,社会通念上,美的形態が認められるようなものでなければならない。
 通常のありふれたビル,住宅,橋など,実用本位で建築されたものは建築の著作物とはいえず,著作権法上保護されないということになる。
 先の話題を賑わしている建築物は,単純に実用だけを目的として作られたものではなく,そこには,審美性,創作性が見て取れるので,おそらく保護されるべき建築の著作物ということになると考えられる。
 こういった著作権法の保護を受ける建築物について,著作権法は,建築して複製する場合を除き,方法の如何を問わず,自由に利用することができるとしている(著作権法46条2号)。
 建築物の模型を作るということは,建築物そのものを建築することではないので,従って,それは,自由利用の範囲内にあり,何ら著作権を侵害することにならないということになる。
 ところで,現存しない建築物について,その設計図や解説資料などを基にして模型を作成し販売する場合はどうなのであろうか。
 著作権法は,「建築物に関する図面に従って建築物を完成すること。」も複製に含まれるとしている(著作権法2条1項15号ロ)。
 従って,現存しない建築物の設計図や解説資料などに基づいて,無断で建築物を建築することは許されないことになる。
 しかし,このような設計図や解説資料などにより,建築物の模型を作成して販売することは,これもまた建築物そのものを建築することではないので,「建築物に関する図面に従って建築物を完成すること。」には当らないということになる。
 結局のところ,現存しない建築物の模型を作成することも,自由にできるということになる。
 かくて,現存している建築物であるかどうか,またそれが著作権法上保護される著作物にあたるかどうかにかかわりなく,建築物の模型を作ることは,何ら問題がないという結論になる。
 もっとも,建築物の模型につき,意匠権などが成立している場合はもとより別の話となるが,その成立の可能性は少ないと思われる。

弁護士 中山 徹