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会社法
『過料の制裁 会社法上必要な手続への安易な対応 ~一歩誤れば刑事犯〜』

 ある日突然、裁判所から、「被審人を過料金12万円に処する。本件手続費用は被審人の負担とする。」等と書かれた裁判書が送達され、手にした代表取締役を驚かせ、狼狽させることがある。
 この裁判は、代表取締役が裁判所に呼び出されることもなく、またその言い分や弁解を聴かれることもなく、一方的に裁判所によって出されるのが通常であるから、代表取締役が驚くのも無理はない。
 このような事態は、取締役会や株主総会などが実際には開かれない、会社といっても名目的な個人商店の域を出ないような中小企業や同族会社で、取締役や監査役が任期切れになっているのに選任手続もとられず、会社の商業登記簿上もそのままに放置してあるといった場合に多く見られる。
 ところで、会社の代表取締役は会社法上様々の義務を負っているが、その中には、「法律又は定款に定めた取締役又は監査役の員数を欠くに至ったときはその選任手続をしなければならない」とか、「取締役や監査役に変更が生じた後、本店所在地においては2週間以内に変更の登記しなければならない」などの手続上の義務がある(会社法第915条)。そして、それら手続上の義務を懈怠した場合、代表取締役は100万円以下の過料に処せられることになっている(会社法第976条1号、22号)。
 一方、登記官は、過料に処せられるべき者があることを職務上知ったときは、遅滞なく管轄地方裁判所に通知しなければならず(商業登記規則第118条)、その通報を受けた裁判所は、相当であると認めるときは、当事者の弁解等陳述を聴かないで直ちに過料の裁判をすることができることになっている(非訟事件手続法第164条)。
 ここに、先のような会社では、何の異動も見られない商業登記簿上の記載から、取締役や監査役の選任手続の懈怠が明かであるとして、裁判所から過料の裁判を受ける結果となる次第である。
 さて、このような中小企業や同族会社では、かかる事態を避けるためか、実際には株主総会や取締役会などを開かないまま、登記手続に必要な株主総会議事録や取締役会議事録或いは就任承諾書などを作出し、これを登記所に提出して事を済ませるという事例も多いと聞く。
 しかし、これは虚偽の登記申請以外の何物でもなく、公正証書原本等不実記載罪という罪に問われる紛れもない犯罪行為である。この犯罪は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられることになっている(刑法第157条)。
 その上、もしこれら議事録や就任承諾書の記名捺印が、本人に無断で行なわれたということであれば、さらに私文書偽造罪が成立することとなる。その法定刑は、3月以上5年以下の懲役である(刑法第159条)。
 登記所の登記官は、書類上要件さえ調っていれば、それ以上の実態調査をすることなく、登記申請に係る事項を商業登記簿に記載する建前になっているため、事実上、これ迄ことなきを得てきただけのことに過ぎない。
 後日、これらの違法行為が明るみに出ないという保証はどこにもないのであって、代表取締役は、過料の制裁どころではなく、刑事犯として処断される危険を背負い込むことになるのである。
 代表取締役は、改めてその責任を自覚し、安易な処理に走ることなく、原則に立ち戻って実質的な経営にあたりたいものである。

弁護士 中山 徹