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会社法
『取締役の尺度、社長の尺度』

 今、人材が問われている。
 会社は重役といわれる人たちによって担われている。株式会社では取締役と呼ばれる。
 取締役は、事業計画を作り、決定し、実行し、成果をあげていく。事業の遂行には従業員をそろえ、資金を調達し、情報を駆使して、商品を造り、販売していく。これを一人でやっては身がもたないから、従業員を組織してその力を借りて事業を進める。自分の資金力だけではこなしきれないのが一般だから、他の資金力を借りる。経営情報も、広く社内外のインフォメーションを集積し、管理し、利用していく。これを統合して商品の企画、製作をなし、グローバルなマーケティングの上に立脚した販売システムを確立し、商品の流通を図る。
 いずれをとってみても、取締役の一人の力の及ぶところではない。一人で全ての才能を完備できるところではない。広範にもわたり各分野のエキスパートと才能を競うことは、まず不可能だ。
 それでは、取締役という人的資源に必要なものは何か。
 取締役をはかる尺度とは!
 取締役の尺度とは即ち「徳」である。いかに個々の分野について才能豊かであっても、徳のない人は、取締役に選任してはいけない。徳とは換言すれば仕事の「場づくり」のできる人のことである。仕事を遂行するに必要なステージづくりのできることが肝要である。必要な資金を集め、情報活用のシステム化をし、商品の製造販売のシステムを構築して仕事のステージをつくり上げ、適材を登用して各人に名演技を披露して頂く。取締役は自ら名優になってはならない。社員と才能を競う立場にない。
 会社法362条は、取締役会に重要なる業務執行(財産の処分、借財、使用人の選任解任、組織の設置変更廃止等)を決定する義務を負わせている。即ち、事業遂行に当たっての事業内容、人員計画、商品製造、販売計画、財務計画、情報管理等について責任をもてと命じている。事業展開に当たっての場づくりを命じているのである。
 また、会社法330条は、取締役は会社に対して、善良なる管理者としての注意義務を負う旨を定める。ここでも、注意義務は、あくまで管理者としてのそれであり、具体的実行者としての視点からではない。取締役には、いかにして会社業務を遂行していくための舞台づくりをするか、そしてその管理、運営をいかにするかが負託されているのである。
 それでは、代表取締役の尺度は何か。それは「運」である。運の強い人であることが社長の根本的条件である。運とは、方向性を指し示す力である。混迷する現在において、将来を見通すことは難しい。それでも時は確実に流れていく。社長は常に未来に向かって選択を迫られている。取締役が場づくりをし、社員が能力を発揮して懸命に働く。会社というステージごと、いずれの方向に行くのか。その方向性を誤れば、ステージごと泥中に沈んでしまう。常に将来を見据え、ブレーンより知恵を頂き、方向を指し示す。会社を生かすも殺すも社長の方向感覚(運)次第である。会社法は、社長は会社を代表すると定める。その意図するところは、代表して生存環境を選択していく、即ち社長が会社の生存環境という空間をどう飛行していくか、時間の基準をしっかりともって方向性を示す義務を負っている、というところにある。
 社員の努力を実らせるのは、取締役の「徳」と社長の「運」にかかっているといえる。とかく株主からの取締役責任の追及が取り沙汰されている時でもあり御研鑽下さい。

弁護士 中園 繁克